担当主査 山岡義典

1.審査の視点

(1)審査経過

 市民賞については、36団体が第1次審査の対象となった。これらを私と堀審査委員で個別に評価した結果を第2回審査委員会に提出し、課題解決力賞や組織力賞の評価結果とともに全審査委員で審議し、市民賞のノミネート団体として5団体を選んだ。全審査委員は、それら3部門15団体のすべてのノミネート団体についてさらに精査し、各分野別に推薦順位をつけて第3回審査会に提示、議論を尽くして授賞団体を選出した。

(2)評価の視点

 市民賞の審査にあたっては、その活動自体が多くの市民に開かれ、支えられているかどうかという点を重視した。寄付者やボランティアに対する視点が明確で、特に参加者に対する十分な配慮がなされ、参加することが参加者の成長や喜びに繋がるような工夫がなされているかどうかが問われた。当然ながら、その前提として財務状況などのWebによる積極的な情報開示も審査の対象になった。

2.審査結果

(1)市民賞は「プール・ボランティア」に

 以上の視点から、最終的に「プール・ボランティア」が授賞団体に選ばれた。14年にわたり多様な参加者を巻き込みながら着実に活動を続けている団体である。1200人の市民がボランティアとして障害者や高齢者のプールでの運動をサポートしており、ボランティアの基盤は大きい。市民性の自己評価の記述にはなかったが、課題解決力の記述には、市民ボランティアの気づきや喜びの姿、ボランティアの自発的な呼びかけでその輪が広がっていることが記されており、参加者の成長の様子を見てとることができた。命に係わる活動だけにボランティアの質の確保が大事になるが、その研修の仕組みも行き届いている。自己評価は非常に厳しく控え目で、確かに特定の狭い範囲の事業であるだけに組織力の弱さはあるし、また市民性という視点ではさらに広い層からの寄付も今後の課題であるが、全国に普及してほしい草分け的なモデル的事業として高く評価された。Webによる広報も分かりよく、財務情報の表示もよく工夫されている。

(2)市民賞にノミネートされた4つの団体

 以下には授賞には至らなかったが評価の高かった4つのノミネート団体について、応募受付順にコメントとする。

多摩草むらの会

 精神障害者の親の会から発展した団体で、独自の発想で地道かつ安定的に就労等の活動を続けており、実績と成果が評価できる。事業展開と活動内容等が明確で課題解決力も優れているし、第三者評価を行うなどの組織力強化の姿勢も評価された。しかし市民性に関しては自己評価も高くないように、今後の展開に期待するところが大きい。ボランティアについてはボランティアセンターと連携しながら取り入れているようだが、応募に記されている「成長」が具体的にどのように育まれているのかよく見えないとの審査意見もあった。

南三陸町復興推進ネットワーク

 東日本大震災後に地元の若手が中心に立ち上げた団体で、地縁的な市民参加による新たな地域社会のカタチつくりによって復興をめざそうとしており、その精神や狙いはきわめて重要である。身近なところに視線を向けてボランティア募集・配置を考えている点は地域内の団体の活動として評価できるが、そこに参加した人々の成長やストーリーまでは未だ見えない。課題解決力や組織力は自己評価も低くなっているが、設立間もないために実績もまだ十分ではなく、不安定なのは確かである。さらに活動を展開して次年度以降に再チャレンジしてほしい。

ゆめ風基金

 第1回では課題解決力賞にノミネートされ、震災特別賞を受賞した団体で、東日本の被災地におけるその後の継続的な活動も高く評価できる。今回は市民賞として評価することになり、広く市民の寄付を集めている点は高く評価されたが、ボランティアの参加に対する視点や実態がよく見えなかった点もあり、市民賞としては今一歩という結果になった。Webやブログにおける財務情報の開示についても分かり難い点があり、市民賞としてはさらに工夫がほしい。

子ども劇場千葉県センター

 子どもを巻き込んだ地域活動の積み重ねを踏まえ、ニーズに合わせた事業が実施できているし、寄付やボランティアの参加等の市民性も強く、課題解決力や組織力についても評価できる。しかし授賞に至るには、市民的な基盤という視点からのアピールポイントが弱いようであった。チャイルドラインの電話受付ボランティアには子供たちが置かれている状況や電話での接し方などを学ぶ研修の機会を設けているが、こうしたボランティアたちが具体的にどのような成長があったのか説明があればよかった。財務状況のWeb上での開示も弱いように感じた。

3.審査過程にみる課題

 どの賞においても財務状況の分かりやすい説明は重要な視点であるが、特に市民賞ではそれをWeb上にどう表現しているかが大きな評価視点となる。この点でノミネート団体も含めた応募団体の多くが不十分であった。毎年度の事業報告や決算はWeb上に開示することを習慣づけ、できればその分かりやすい説明もほしい。また市民賞では、寄付者やボランティアとしての幅広い参加が求められるが、単にそれを促すだけでなく、その参加者にとっての意味までもが問われる。そこまでの記述がなされているものは多くなかった。なお自己評価における市民性の評価は、課題解決力や組織力に比べて全般的に低くなされていたようである。多くの団体における実感の表れでもあろうが、むしろ控えめに過ぎる思われる評価もあった。NPOの発展には参加の文化が不可欠だが、それが未だ途上にあって戸惑いつつある現状を示しているのかもしれない。