4月12日、記者会見に続いて「強く豊かな市民社会を考える」対話集会が開かれ、非営利組織評価基準検討会のメンバーと、国内のNPO関係者をはじめ幅広い層から約200人の参加者が集まりました。

 

 

 

検討会のメンバーからは、片山信彦氏(認定NPO法人・ワールドビジョンジャパン常務理事・事務局長)、加藤志保氏(認定NPO法人 チャイルドライン支援センター事務局長)関尚士氏(社団法人 シャンティ国際ボランティア会事務局長)、多田千尋氏(東京おもちゃ美術館館長、日本グッド・トイ委員会代表)、堀江良彰氏(認定NPO法人 難民を助ける会事務局長)、武田晴人氏(東京大学大学院経済学研究科教授)、山内直人氏(大阪大学大学院国際公共政策研究科教授)、田中弥生氏(大学評価・学位授与機構准教授、本研究会主査)、工藤泰志(認定NPO法人 言論NPO代表)を含めた9氏が壇上に並びました。

 


まず工藤が「エクセレントNPOというNPOの望ましい基準を示すことで、非営利組織だけでなく市民社会を強くしていく循環を起こせないかと思っている。ただ評価基準の議論をするだけでなく、強い市民社会をどうしたらつくれるか、ぜひみなさんと話し合いたい。またエクセレントNPOという基準を示すことの是非も問いたい」と対話集会の趣旨を説明しました。

 

 


次に田中氏からエクセレントNPOの定義について説明がありました。まず田中氏は、NPOには「社会ニーズにこたえるべく、財やサービスを提供する役割と、社会に貢献したいと考えている人々に、寄付やボランティアをすることで社会参加の機会を提供する役割の2つの役割がある。しかし、現在NPOは後者の役割を果たせていない」と資料に基づき現在のNPOの課題を説明しました。また「かつてに比べNPOの数は増えたものの、玉石混交でNPOセクター自体の信用が落ちている」と指摘し、「市民の信頼を獲得できるような、望ましい非営利組織のあり方を示したい」として、「自らの使命のもとに、社会の課題に挑み、広く市民の参加を得て、課題の解決に向けて成果を出している。そのために必要な、責任ある活動母体として一定の組織的安定性と刷新性を維持していること」と「エクセレントNPO」の定義を発表しました。

 

次に、「エクセレントNPO」評価基準作成に携わった参加者から、田中氏の説明に補足がなさなれました。

 


片山氏は自身を振り返って、「設立時から20年がたって、支援者の数、資金は拡大したが、目前の事業に追われるなるなかで、組織が何のため存在し、どう社会に影響をあたえ、どう社会から評価されているか、忘れがちで、組織もマンネリ化する。ミッションの明確化が必要で、そのために『エクセレントNPO』というチャレンジングな目標を掲げることで、これを目指していきたい」と述べました。

 

 


多田氏は「『助成金の切れ目が事業の切れ目』だとか、『日本には寄付社会がない』、『ボランティアがゼロの団体がある』話を聞く。そのたびに、日本に本当に市民社会は育っているのか、と疑問を感じてきた。こういうことも今日は議論したい。」と述べました。

 

 

 


関氏は「事業のために寄付などの呼びかけを行っているが、ややもすると市民は活動の財源であるという感覚にもとらわれかねない。それでいいのかという疑問があった。今公のセーフティネットが崩壊していく中、市民一人一人受益と負担の意識を高めていく必要がある。そのなかでNPOは市民に参加の機会を提供するという方向で考えるべきではないかと思っている。『エクセレントNPO』の発表は、すぐれたNPOを選び出すという意図ではない。NPOの役割について議論を喚起し、NPO像を問うていくための機会としたい」と述べました。

 


武田氏は「現在の日本社会には、営利企業も、非営利企業の活動の中間に、社会のニーズをくみ上げられていない領域がまだ多くあると思う。政府、営利企業、非営利企業のいずれも必要な財・サービスの提供をしている点では変わりない。しかし、まだ供給されない社会的ニーズを誰が提供するか。それは、必要だと思う人々自身が任意で組織して提供する、あるいはそれに賛同する人が寄付をしたり、サービスを購入することで支援する以外にないのではないか。社会変革をもたらす組織を、市民の参加によって維持できる制度的なしくみ、サポート、考え方などを提供したい」と述べました。

 


堀江氏は「私が民間企業を辞めてNPOに関わることにしたとき、周囲からは『大丈夫か、怪しくないか』と聞かれた。10年たった今でも、世間一般ではNPOが良いか悪いかわからないという印象を持たれているのではないか。そこでNPO自身が、自ら良い組織であると示していく必要がある。また、市民一人一人が、よく考え、理解したうえでNPOの活動に参加できる仕組みが必要で、こうした考えから評価基準の検討会に参加した」と述べました。

 

 


加藤氏は、「活動の目標を達成し、その次のステップはどこへ向かえばいいのか見えなくなった時期があった。検討会に参加し、目指すべきNPOの基準策定をしてみると、それに照らして今自分たちがどこまで到達し、何が足りないのか、これからどこにチャレンジしていけばいいかが非常に明確になった。このように組織の到達点を測り、今後の方向性を確認するためのフレームとして、『エクセレントNPO』は基準を示せているのではないか」と述べました。

 

 


山内氏は、「NPOの社会的認知は高まってきたが、実態は『清く正しいが、弱く貧しい』まま以前と変わっていないのではないか、と危機感を持っている。今は弱い団体にあわせて、制度が作られている。優れたNPOはどういう要件をみたすのかを示すことで、NPOセクター全体の底上げができるのではないかと期待して検討会に参加した」と述べました。

 

 

これをうけて工藤は、「評価基準検討会参加者は社会の課題に真剣に向き合っている人々で、彼らとの2年間の議論ではいろいろなことを考えさせられた。そして、言論NPOはこうした人々を『見える化』するための活動をしようと考えた。そのためには、当事者が社会に対して発言することが必要だ。そういうひとたちが市民にメッセージを出して、市民社会にうねりを起こしていけば、この国は変わるのではないかと本気で思っている」と応じました。そして、来場した参加者との議論に移る前に、田中氏にNPOの現状についての説明を求めました。

 

田中氏は、NPOの現状として、財務状況がよくない団体が多いこと、寄付金がゼロの団体が半数近いこと、市民ではなく地方自治体と協力関係にあると考える団体が多いことなどを資料にもとづき指摘しました。

 

こうした状況の中で、「エクセレントNPO」の評価基準を示すことについて片山氏は、「エクセレントという言葉に抵抗をもたれるかもしれないが、とにかくいいNPOを目指すことをNPO自身が考えることが第一の目的だ。そして、望ましいNPOとは何かを示すため、まず評価基準を普及させ、近々評価基準の自己診断ができるようなツールも発表していきたい。今日示した基準は完璧なものではなく、皆さんの意見を聞いて、より良いものを作っていきたいと思う。また、個々でやるのではなく、一緒に望ましいNPO像について考えられるNPO間のネットワークを作ることも必要ではないか。記者会見では、第三者が評価をする仕組みを作る必要があるのではないか、という質問もあったが、現時点ではNPOの自主性や主体性を求めていきたいと思う」と述べました。

 

対話集会の後半では、会場を含めて、非営利組織や市民社会のあり方について様々な角度から議論が行われました。

 

工藤は、会場に対して、「今日はNPO・NGO以外の人たちも大勢参加している。そうした方々が、NPO・NGOをどのように見ているのか、率直な意見を伺いたい」と投げかけました。

 


これを受けて、安嶋明氏(日本みらいキャピタル代表取締役社長)は、「エクセレントNPO」の趣旨や、「NPOは、政府や営利企業がカバーできない中間的なニーズを埋めるものである」という武田氏の見解について賛意を示しました。その一方で、「NPOが中間的なニッチを埋める小さな存在で、リーダーという個人に依る部分が大きいのであれば、マスに評価を行うことには難しさがあるのではないか」と指摘しました。

 

武田氏は、この疑問に対し、「その通りだが、日本の社会においては、NPOが埋めるべき中間領域は大きく空いているように思える。また、そこでニーズを満たす存在が現れれば、それは何らかの波紋を生み、社会の仕組みを変えることもありうるだろう」と答えました。また、評価の困難性については、次のような見方を示しました。「営利企業を見ると、200年前まではやはり個人的なつながりで動く存在であったが、次第に市場の中で評価がなされるようになった。こう考えると、非営利組織について新しく基準を作ることも、明日できるようなことではないにせよ、不可能ではないのではないか。寄付やボランティアの先を選ぶ上で、そうした基準を欲している人たちも存在するだろう。」

 


川島隆明氏(カレイドホールティングス代表取締役)は、「NPOの場合、成果というものをどう捉えればよいのか」と質問し、これに対して田中氏は「提供した財やサービスの数量など、アウトプットはゴールではない。人々の生活の改善など、アウトカムを見るということになる。その測定は難しいが、徐々に方法論は発展してきている」と答えました。

 

 


土屋了介氏(財団法人癌研究会顧問)は、「評価体系をここでお示しになったが、それが普及していくには何年もかかるのではないか。認識を持った市民を増やすためには、若い世代の教育に精力を使う必要があるのではないか。」と問題を提起しました。関氏は、教育やメッセージ発信の重要性を肯定したうえで、「確かに、市民の認識という面では厳しい状態なのかもしれない。しかし、以前と比較すれば良くなっていることも事実だし、私は大きな期待を持っている」と答えました。

 

 


続いて根本悦子氏(ブリッジ・エーシア・ジャパン理事長)が意見を述べ、アメリカの例も引きつつ、評価を行う民間の団体が多く存在し、寄付などの際の選択肢が広がることが重要ではないか、としました。また根本氏は、土屋氏が述べた、教育の重要性という論点にも賛意を示しました。

 

 

 


上昌広氏(東京大学医科学研究所特任准教授)は、「営利、非営利ということで、明確に区分する必要性はあるだろうか」「今回の評価基準は、大規模な団体が対象なのかなという気がした。小さい規模の団体は、カリスマ的な個人がやっているところも多いが、そうした点を盛り込むと分かりやすいのではないか」と述べました。

 

 

 

ここで武田氏は、これまでに複数の発言者が言及した、教育の問題および創業者への依存の問題についてコメントしました。前者については、「何を教えるか、ということが問題だ。そのためにも、営利企業も、非営利企業も、社会的なニーズを満たす重要な組織だ、というように、発想を転換していく必要があるだろう」と述べました。後者については、「財やサービスを提供し、参加する人がいる組織を、もう一度作り直すことは容易ではない。創業者がいなくなった後も組織を維持していく必要があるのであって、この評価基準もそうした考え方から作られている」と答えました。

 


次に國松孝次氏(救急ヘリ病院ネットワーク理事長)が、自身が理事長を務める「救急ヘリ病院ネットワーク」での経験を踏まえつつ所感を述べました。國松氏は、「今までは、ドクターヘリを全国に飛ばす、ということのみを目標にしてきたが、強い市民社会を作る、という考え方に触れ、良い刺激をもらったと思う。完璧な基準というのはないだろうが、自分たちの行動をチェックするものさしを与えていただいたのは非常にありがたいことだ。」と述べました。寄付を集める際の経験にも触れ、「今までは個人の付き合いで寄付を出してもらう、という場合が非常に多かったが、それでは限界がある。寄付を永続的なものにしていくには、企業などが寄付先を判断する客観的なものさし、大義名分が必要だという思いがあった。今回のような基準を公表していくことは、企業や個人にとっても意味のあることだと思っている。」と述べました。

 

加藤氏は、度々話題となっている教育の問題について、「チャイルドラインで支援した子どもが大人になり、ボランティアや寄付者として参加する流れが始まっている。その意味で、私達が襟を正して活動することが、市民を育てることに繋がるのではないか」と、自身の経験から語りました。

 


林良嗣氏(名古屋大学大学院環境学研究科教授)は、国際交渉の過程でのNPO・NGOの活動に触れ、「NPO・NGOは、議会と補完的な形で民意をくみ上げる補完的なシステムだと思っている」という見方を示しました。また、NPOの評価については、「メンバーでない人々から、どれだけ民意をくみ上げることができたか、という視点もありうるのではないか」と述べました。

 

 

山口誠史氏(国際協力NGOセンター(JANIC)事務局長)は、JANICが行っているアカウンタビリティ・セルフチェックについて言及し、「本日言及された、市民性や社会変革といった視点には感銘を受けた。こうした視点も取り入れていきたい」と語りました。

 


その後、会場から多くの人が発言を求め、検討会のメンバーと対話が行われました。

 

 

名古屋から駆けつけた市議会関係者は、「実態として、NPOなどは行政の民間解放の受け皿のようになってしまっている」と述べ、田中氏が説明した「行政の下請け化」と共通の問題意識を示しました。そのうえで、「今日集まっている皆さんのような、自立的に活動していこうという意識は、行政には伝わっていない。NPOの役割は、行政の手の届かない課題を見出すことにあると思うので、是非そうしたメッセージを強く出していってほしい」と意見を述べました。

また、言論NPOが展開する「市民を強くする言論」の活動に激励の発言もありました。

 

多田氏は、ボランティアと寄付について、「ボランティアが働く時間というのは、現状それを評価する仕組みはないが、立派な寄付だと思っている。また、単にお金を出すよりも、額に汗して活動するボランティアの方が、市民性は育つのではないか。」との考えを示しました。

 

最後に、山内氏と工藤が本集会を総括しました。山内氏は、「今日は批判も受けることを想定していたが、好意的な意見が非常に多かったと思う」「私のところの学生でNPOに興味を持つ者もいるが、今回の意図は、そういうときに彼らを、自信を持って送り出せるようにしたい、ということだ」と述べました。

 

工藤は、「以前から、市民社会が大事だということを言ってきたが、最近は反応が以前とは全く異なる。専門家層などの参加意識も強く感じる。今は、NPOがそうした動きの受け皿になれるかどうかの正念場なのだと思う」と述べました。今後については、「評価基準を公表しただけでは終わりではない。今後も様々な動きを作っていきたい」と展望を語って、対話集会を締めくくりました。

 

文責:インターン 石田由莉香(東京大学)、楠本純(東京大学)